世の中には、遊郭に行っても女を抱かずにいる男なんてざらなんだ、というのを聞いた。ただ抱きしめていてくれ、と頼むらしい。眠れないのだ、と。母性やら安心感やらを必死に探してしまうほど、ああ病んでいる。全部全部世の中が悪い。一歩夜道に出れば血煙は当たり前。
ご時世だなぁ、と思わず呟いた。
それは喉を震わせて、腕の中にいる男に振動として伝わったらしかった。


「なにが」

「いいえ、なぁんにも。あんたはちゃっちゃとお眠りよ」


もそもそと毛布を手繰ってちょうど胸の辺りにいる男は大人しくなった。
抱きしめているのだか抱きしめられているのだかわかりゃしない。男に響かないように喉の奥で静かに苦笑した。


「あんたあんまり眠れないなら遊郭行ったが良いよ、あたし居ないときどうすんの」

「ここらの遊女はみんな土方さんが一回は手ェ付けてるから嫌だ」

「おや、えげつない」

「そのくせ遊女は抱かないと煩いし、刺客が混ざってるときてる」


くっくっく、と押し殺した笑いが聞こえた。大方殺ったときのことを思い出しているのだろう。
ああ眠れない訳だ。


「楽しそうだ」

「本能だからなァ」

「その癖安らぎを女に求めてるときた」

「それも本能だ」


そうだ、本能だ。それは抗いがたいと知っているからわたしはこんな時だけはこの男に優しくしてやろう、と思う。これだって立派な本能なのだろう。


「ねぇ」

「ああ」

「でもあんた、あたしもその女みたく、あんたを殺してみたくなるかもしれないじゃない」


蜂蜜色の頭を撫でて遣りながら意地悪を言ってやった。
ただそれも、否定の仕様のない本能。優しくしてやりたい、が勝っているけれど虐げてみたい、って思うこともある。今だってもしわたしがこの貧相な胸にお前の顔を力いっぱい押し付けたら。ねえ、考えたらちょっとどきどきした。どうしよう。


「お前は俺を殺さない」

「解らないよ」

「そしたら俺ァうっかり殺されてやるかも知れない」

「マジでか」

「悪くない」

「悪いって、絶対格好悪い」

「でも俺とお前似てるから。そういう奴なら悪くない」


実に愉快そうに肩を揺らした。
根っことかそういった部分が似てる奴に会える確率って一体どれくらいだろうか。わたしには解らない。ただとんでもないことなんだってのは解ってる。
まさにテンモンガクテキカクリツってやつなんだ。わたしが使うと逆に頭が悪そうな単語。


「殺されても良い位似てるからあたしんとこくるのか」

「そうかもなァ」

「あんた、それってちょっとした自殺願望よ」

「それはハズレ、お前と俺が似てるなら俺だってお前殺してみたい」

「それでも自殺よ、自分で自分殺してやるみたい」


自分と似た者に命を委ねる。ああ、それは、きっと倒錯的で本当に魅力的なことかも知れない。柄にもなく、ロマンチシズムを感じた。わたしはこういうところ、不感症だと思っていたのに。ちょっと自分に失望して、苦笑を禁じ得ない。


「そこにあんたの欲しがる安らぎは在るのかい」

「ないかもしれねぇ」

「じゃああんたなら、あたしも殺されてやって良いかも知れない」


わたしもお前も大概酔狂だ。それでも浪漫に狂気は付き物だから仕方ない。ましてや、同じ所から生まれてきたような錯覚を抱くほどわたしらは似ていた。充分過ぎるほどに舞台は用意されている。護身用の刀は何時だって枕の下。


「でも、アレだ」

「アレだ」

「「土方にゃ絶対殺らせない」」


声は綺麗に重なった、魂の双子は褥の中に。
宵闇で惷く気配があった。きっと望むんなら枕の下からだ、と思った。










安寧を願っていた、












2007/2/17
沖田と初期沖田 (同じ狢の)